鶫の書

鶫書房房主の古書蒐集と読書の記録です。

早稲田、古本屋、飴

 2022年3月3日である。

 

 それにしても早稲田の古本屋街のさびれかたには悲しいものがある。昨年のことだが、私は十数年振りに訪れて、そう感じた。買いたい本も店頭にはほぼなくて、たまにあったとしても値札が昔のままなのか、高い。BIGBOXや穴八幡の古本市もなくなってしまったし、もう高田馬場や早稲田に行く用事がなくなってしまった。

 

 店主の高齢化が進んでいる。ある店主(の奥さん)と少しお話した。「本当はやめたいんだけどねえ」とおっしゃっていて、今は古書展にも参加せず、店頭での販売と「日本の古本屋」への登録のみで売っているらしい。だが、店主も奥さんもテキストの打ち込みは出来ないのでアルバイトを雇っていて、その人件費が大変なのだというのだ。古書展用に準備していた倉庫の在庫もそのままだということだったが、そこを見せてくださいよ、と言うわけにもいかなかった。その奥さんには帰りに飴をもらった。また、別の店では、かなり高齢の老夫婦が「お昼、あたしはコロッケとパンでいい」とか言っていて仲良しでいいなと思いながら、店を続けるのもなかなか大変なことだなと思った。

 

 私も久しぶりで勝手が分からず、初めて上京した時みたいにきょろきょろしながら歩いた。だからだろうか、二人の人から学生扱いしてもらって、少しうれしかった。それだけ齢をとったということで、年寄りらしく、帰りにきんつばとあんころ餅などを土産に買って帰った。町田康の『東京瓢然』の穴八幡のくだりなども思い出され、天気がよかっただけに、なおさら明るい悲しみを感じた。