鶫の書

鶫書房房主の古書蒐集と読書の記録です。

高階廣道、釈迢空

 2022年2月23日である。ネットで購入した本。

 

 高階廣道『橿の生』(高階研一・1957年・再版) 100円

 

 これは再版で、初版は昭和23年(1948年)に刊行された。内容における初版との違いは巻末に家族による思い出の記が追加されたことである。父・研一は初版でも書いているが、他に母、兄、妹が故人を追想している。

 高階廣道は大正14年1924年)生、國學院大学予科修了、海軍中尉。戦後の昭和22年(1947年)没。釈迢空門下で、歌集も迢空の選を経て編まれている。序文「『橿の生』の前に」は「高階廣道は、昭和二十二年紀元節近い、冬空の澄みきつた日に、死んで行つた。」で始まる、篤い思いの文章である。「紀元節」はこの昭和23年(1948年)7月20日公布・施行の「国民の祝日に関する法律」によって廃止される(後昭和42年に「建国記念の日」として復活)。この序文の末尾「くり言を書き添へたのは彼の師 釋 迢空」には感動した。歌才豊かな愛すべき青年だったことがわかる。

 

昭和19年

 先がけし人のむくろをふみふみて、なほし行きしが、夢と思ほゆ

 かすみ立つ春日の野辺の花すみれ かく咲きにしか、妹の送りし

昭和20年

 みなし子の兵の心の けなげなる。吾を死なせよすゝめてと請ふ

 かへらざる吾子待つらむか。夕暮るゝ 街にたゝずむ親 こゝかしこ

 さまざまに兵等の思ひ 浮かび来て 今宵の夢の結び難しも

 自らは戦はざりし人の如 言に出て言ふ。かの人人よ

昭和21年

 麦畑の 春浅けれど、ほのぼのと地息立ちつゝ雪とけそめぬ

 人の泣く様を つばらに見せてけり。その匠らのわざのかなしさ

 かへらざる父を祈るか 幼きが 母をまねびて、首垂れたり

 小暗きに 鶯なけるみ吉野の 谷に流らふ霧のゆたかさ

 ひそかなる吾が家の昼を、床内に ひたおぼえつゝ 一日過ぐしぬ

 病室の障子にあたる朝かげに、雀うつりて とび去りにけり

昭和22年

 近々と 久米寺の鐘なりいでぬ。としの夜を越ゆ。厚き衾に

 うから人の深き心を 臥しながら しみじみおもふ。おほとしの夜